大学案内
学長あいさつ
人々が皆手話で会話をしていたら、あるいは世の中の文字が全て点字だったら、ろう者や盲人は「障害者」ではなくなる。それは理想ですが、現実社会ではどうでしょうか。
さらに、ろう者は聴覚障害者に含まれ、盲人は視覚障害者に含まれますが、聴覚障害あるいは視覚障害と一括りにはできませんね。聴覚障害者の中でも、補聴器や人工内耳を介して一定程度、話し言葉を聞き取り、自己の音声を活用している人がいます。また、視覚障害者の中にも、眼鏡や拡大読書器を使って、一定程度、視覚を活用している人がいます。
同じ障害種に分類されていても、聞こえ方、見え方、コミュニケーション方法、情報授受の手段は一人ひとり違います。その中の一人である、聴覚障害者あるいは視覚障害者と自認している「あなた」は、自分と周囲のヒトやモノ、つまり環境との間に立ちふさがるバリアについて、周囲の人々に説明できるでしょうか。学校を卒業し職場という社会に入った途端に、このバリアに直面し、戸惑い、苦しむ人たちが多くいます。
社会の中にあるバリアにどう対峙するのか。それは学校や大学という、ある程度守られた環境の中にいる間にも、場に応じた対応について学ぶことができます。ただし、理論を学ぶだけでは、心と意欲が追いつきません。気持ちの準備が必要です。
それは、同じ障害種の人々とともに学び、生活する環境の中で、自分の特性を知るところから始まります。障害に共通した部分と異なる部分、そして、聴覚や視覚の障害に起因することがらと自分自身の性格や能力に関わることがらを知ることです。要するに、障害を含めた己自身を客観的に捉えることです。同じ障害種のコミュニティに一定期間、身を置けば、きっと感覚的に知ることができるでしょう。この自分の特性を知るステップを踏んでから社会に出れば、能力や指向を含めた自分自身を周囲に説明し、自己の能力が発揮できる環境づくりに繋がるはずです。これがバリアの低減です。
筑波技術大学では、同じ障害種の人々とともに学び、生活し、様々な活動をすることが日常的に行われます。聴覚障害者、視覚障害者にとって、不自由のないコミュニケーション環境というインフラが整備されているこの大学で、自己の能力を最大限に高めてください。
国立大学法人筑波技術大学 第4代学長 石原 保志
専門分野(心身障害学・聴覚障害教育学)