研究・産学連携
vol.1:高精度時刻情報を保持可能な自律型IoTセンサ(2018.7.2)
産業技術学部の倉田成人教授の研究グループは、チップスケール原子時計を応用し、GPSやネットワークに依存せず、高精度な時刻情報を保持できる自律型IoTセンサの開発と適用を進めています。この技術が実用化されると、世界中どこでもセンサをばらまくだけで、正確な時刻情報を付加した計測データが得られるようになり、建築、都市、社会インフラの維持管理等を目的としたマルチモーダルな時系列ビッグデータ分析に活用できます。
あらゆる現象は、時間軸に沿って起こります。時系列ビッグデータ分析には、計測データに正確な時刻情報を付加することが必要です。建築、都市、社会インフラを対象としてセンサを設置する場合、位置情報は固定ですが、正確な時刻情報を保持することは簡単ではありません。ネットワークや専用線を使う方法は制約が多く、GPS信号を使う方法はビルの中や地下、トンネルなどでは利用できません。この問題を本質的に解決するために、高精度な時計であるチップスケール原子時計(Chip Scale Atomic Clock:CSAC)を利用して、高精度な時刻情報を保持する自律型IoTセンサを開発しました(図1、図2)。
表1に示す通り、CSACはボード上に実装できるほど小型で低消費電力でありながら、ルビジウム原子時計に近い計時精度を持ち、水晶発振器による計時よりも圧倒的に高精度です。このCSACをセンサに搭載すれば、正確な時刻情報を保持できるため、世界中にばらまいたセンサでデータを計測し、データベース上で時刻情報に合わせた並べ替えをするだけで、正確な時刻情報を持つビッグデータが得られます。しかし、センサ内でCSACの時刻情報を計測データに付加しようとすると、CSACの計時精度が高すぎて遅延が生じるため、実現が困難でした。これを解決するために、プログラム可能な専用の集積回路であるFPGA(Field Programmable Gate Array)を装備しました。FPGAの利用によりセンサのCPUは負荷を受けず、CSACの正確な時刻情報を計測データに付加することができます。CSACを搭載した自律型IoTセンサの性能を振動台実験により確認し、現在、本学の総合研究棟や、実橋梁、高速道路に設置して、地震観測や維持管理技術への応用を目指した実証実験を行っています。
セシウム原子時計 | ルビジウム原子時計 | CSAC | 水晶発振器 | |
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1秒狂うのにかかる時間 | 5万年 | 1000年 | 1000年 | 1日 |
大きさ | 0.1㎥ | 1000㎤ | 16.8㎤ | 10m㎥ |
消費電力 | 50W | 数10W | 100mW | 10μW |
※本研究開発は,SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」において,独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務として実施しているものです。
(産業技術学部産業情報学科 教授 倉田 成人/2018年7月2日)