研究・産学連携
vol.3:視覚障害者の知覚・認知機能のモデル化とその応用(2023.7.1)
坂尻・大西・松尾研究室にて取り組んでいる研究について紹介しましょう。
研究全般について
保健科学部の坂尻・大西・松尾研究室では、視覚障害者特有の知覚・感覚機能を解明・モデル化し、それらを様々な応用分野につなげる基礎研究を推進しています。
さて、人間どうしの共同体の中で生活する上で欠かすことができない要素は、コミュニケーション、すなわち意思疎通の能力です。社会性を形成するためにはコミュニケーションは非常に重要であり、集団としての成功の可否もコミュニケーションによって決まると言われています。
この観点において、視覚機能に制約を受けた視覚障害者は残された感覚機能を情報獲得のために如何に利活用するか、挑戦の日々を送っています。このような生活環境の中で視覚情報のない状況で情報を獲得する視覚障害者が当たり前に実行している手法を細かく分析すると、新しい発見につながることが多く、興味深い応用や結果が生まれます。
本研究室では、このような人間のもつ未知の能力を解明し、それらを応用することで人々の生活を豊かにする技術開発や多様性の時代における教育モデルの構築など、人の能力を高めるのに寄与する様々な技術を多く生み出すことを目指しています。
研究課題項目例
・視覚障害者が必要とする情報を適時的確に提供するために最適なフレームワーク構築とその応用、および,それに基づく斬新な情報アクセス方法の創出
・視覚機能以外の感覚機能の活用モデルの解明による斬新な情報アクセス方法の創出とその応用
・自立生活を助ける視覚情報に依らない単独移動モデルの構築とシステム実装
・個人特性に応じた直感的情報共有基盤モデルの生成とその応用
・当事者のもつ機能をベースにした感覚機能のモデル化と仮想現実空間への適用による新たな教育基盤の確立およびその一般化応用
・情報共有で活用する信号特性に着目した新たな情報交換手法の開拓(たとえば,数式表現のシンボル表現化に基づくパズル形式へ変換にすることによって,数式展開変形を可能にする手法の開発など)
・視覚障害者の認知空間を拡張する音触提示基盤の解明
・視覚障害者と正眼者が共に楽しめるインクルーシブゲームの研究開発
・健常者と当事者が共に研究開発・評価に取り組むインクルーシブリサーチの実施
開発事例
■教育向けのシステム事例
オンライン授業で活用する教育システムの事例です。盲ろう学生を含むクラスで情報共有するシステムと全盲学生と教員で図形を共有するシステムの事例です。
<システム紹介動画>
■音と触覚を用いたインクルーシブゲームの研究開発例
<ゲームプレイ動画>
これからのアクセシビリティ
これまでの情報機器と人間の接点は、ガイドラインのような一定の決まりを定め、それを遵守するような手段を取られていました。
これからのアクセシビリティは、このような一定の決まりで簡単に定めるような手段ではなく、情報機器がユーザの内部状態・言語情報・非言語情報などから推定し、ユーザが望む行動を適応して行う仕組みが構築されることになるでしょう。
この仕組みを実現するには、人間の内部状態等を計測するセンサー機能の技術、センサーから得られた情報からユーザが必要とする行動を行うための一連の流れを解明したモデル構築など、様々な課題を解決することが必要になります。
また、この問題の解を得るためには、様々な専門分野の知識を必要とし、この問題を解決するのに、視覚障害当事者の人たちが無意識にしている残された感覚機能を応用的に活用する挑戦的な行動が、大きなヒントを与えてくれると確信しています。
(保健科学部 情報システム学科 教授 大西 淳児/2023年7月1日)