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- 2025年8月20日
- 茨城論壇
茨城論壇に学長の連載が掲載されました(3回目)
2025年8月16日 土曜日、茨城新聞「茨城論壇」にて石原学長の連載3回目の記事が掲載されました。
連載は全12回、次回の掲載日は10月18日 土曜日の予定です。
掲載された記事を以下に転載しています。ぜひご覧ください。
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茨城論壇 「共同作業で意識情勢へ」 筑波技術大学長 石原 保志
前回は「障害とは社会の中にある」こと、それを社会全体が認識することが重要である旨を述べました。では人々の意識をどのように啓発していくのか。その一つの方法は法令の制定です。例えば労働における女性差別は、男女雇用機会均等法により改善が進みました。障害という社会バリアが差別と直結するのかはさておき、障害に関する法令は多く存在します。
わが国を含む多くの先進国は、国連の障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)を批准しています。この条約を批准した国は、条約の主旨を履行するための各種法制度を整備し、実施する義務があります。障害者権利条約そのものは人権擁護的な色合いが濃いのですが、日本における法律、特に障害者差別解消法は、共生社会を実現するための義務が明記されており、これは組織体(企業、教育機関、行政組織等)に課せられています。同法の要諦は「不当な差別的取り扱いの禁止」と「合理的配慮の提供義務」の2点です。この法律の効果はたいへん大きいのですが、障害者を取り巻く人々、あるいは障害当事者の意識啓発に強く結び付いているかというと、現時点では疑問です。
法律があるから守らなければならないということと、障害とは社会の中に存在するものであるから皆が共生社会の当事者であるという「意識」の形成は必ずしもイコールではないのが実情です。ではその意識はどのようにして醸成されるのでしょうか。私は教育が重要であると考えます。学校教育はもちろん地域コミュニティーの中での活動や社員研修などもその範疇に入るでしょう。
さらに、誰もが共生社会の一員であるという意識の形成に最も効果があるのは、直接的な触れ合いです。同じ目標に向かって、多様な人々が共同作業をするような場を経験すると、多くの参加者の意識が変化します。
その一例が、パラリンピックです。機能的障害があるアスリートおよび関係者と健常者といわれる人々が、対等の立場で、大会の成功という同じ目標に向けて共同活動を展開しました。密度の濃いコミュニケーションが、助ける、助けてもらう、という関係性を超えて行われ、意識の共有と目標への行動があったのではないでしょうか。その様子の一部は、新聞やテレビ、そして交流サイト(SNS)でも、障害という視点だけでなくスポーツ競技として報道されました。
そうした中で、社会モデルとしての障害を軽減または除去するための行動は、介助や支援に類する行為があったとしても、それは当然のこととして行われ、また受け入れられたことが推測されます
大会を終えて、この活動に関わった人々には、個々人の状況に応じた公平な機会、環境を整備するという、エクイティ(Equity、公平性)に関する意識が醸成されたに違いありません。
話を教育に戻すと、教育段階にある人々を対象とした行事として「全国高校生手話パフォーマンス甲子園」が毎年、鳥取県で開催されています。手話は主にろう者といわれる人々が使用する言語ですが、最近は、聴覚障害者のみならず聞こえる人々の中にも学習需要があり、また学校教育の教材にもなっています。手話パフォーマンス甲子園では聞こえない・聞こえにくい高校生と聞こえる高校生が、手話によるスピーチ、パフォーマンスを通じて交流を行っています。青年期前期にそのような体験をした人たちが、共生社会を創り上げる担い手となっていくことを期待します。
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(広報室/2025年8月19日)