国立大学法人筑波技術大学 筑波技術大学は視覚障害者・聴覚障害者のための大学です。

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  • 2025年10月22日
  • 茨城論壇

茨城論壇に学長の連載が掲載されました(4回目)

2025年10月18日 土曜日、茨城新聞「茨城論壇」にて石原学長の連載4回目の記事が掲載されました。
連載は全12回、次回の掲載日は12月20日 土曜日の予定です。

掲載された記事を以下に転載しています。ぜひご覧ください。

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茨城論壇 初の「デフリンピック」 筑波技術大学長 石原 保志

 11月15日から26日までの12日間、夏季デフリンピック競技大会東京2025(東京2025デフリンピック)が開催されます。 ​デフリンピックは聞こえない、聞こえにくいアスリートが出場する国際競技会です。

 障害者という視点で見ると、聞こえない人は聴覚障害者に分類されるため(障害の医学モデル)、パラリンピックの対象になるのでは、という世間の見方もありますが、ろう(deaf)というアイデンティティーを持つ人々には手話をはじめとした独自の思想、行動様式があること、そして歴史的経緯から、デフリンピックという大会が100年にわたって開催されてきました。 ​国際ろう者スポーツ委員会(ICSD=International Committee of Sports for the Deaf)の協力の下、全日本ろうあ連盟、東京都、公益財団法人東京都スポーツ文化事業団が連携して準備・運営を行います。

 デフリンピックがオリンピックやパラリンピックと異なるのは、情報の視覚化とコミュニケーション方法です。デフリンピックに出場する選手は「聞こえない」アスリートです。ただ選抜される選手の中には、補聴器や人工内耳を装用してある程度、音声を活用できる人々もいます。そこで参加する条件として、大会は▽補聴器などを外した状態で聞こえる一番小さな音が55デシベルを超えている▽各国の「ろう者スポーツ協会」に登録されている選手で、記録・出場条件を満たしている―の2点を出場要件としています。

 選手は補聴器、人工内耳を外した状態、すなわち全員が聞こえない状態で競技に臨むことが条件となっているのです。

 

 今回の大会ビジョンとしては①デフスポーツの魅力や価値を伝え、人々や社会とつなぐ②世界に、そして未来につながる大会へ③誰もが個性を生かし、力を発揮できる、共生社会の実現ーの計三つの事柄が掲げられています。

 単なるスポーツ競技会に留まらず、DE&Iを実現していくための契機にしようという意志が込められています。

 ろう者が共生社会の在り方を具体的に提案するとすれば、「情報保障」がポイントになるでしょう。例を挙げれば、手話通訳(音声を手話に翻訳、手話を音声に翻訳)、文字通訳(音声を文字に変換)、視覚的情報の付加(情報の発信者がパワーポイントや文字資料を活用する)といった、言葉や内容の視覚化です。

 東京2025デフリンピックでは、公式言語として国際手話が使用されます。手話は音声言語と同様に国・地域によって異なるのですが、過去のろう者が集う国際会議やデフリンピック等、ろう者の活動がグローバル化する中で、国際手話の必要性が高まってきました。

 ただ国際手話を修得している人の数は少ないため、今回のデフリンピックでは国際手話通訳者(聴者、ろう者)が活躍することになります。大会に向け、国際手話通訳者の養成講座も行われています。

 では、国際手話ができないろうアスリートの間では、どのようにコミュニケートするか。それはこれまでのデフリンピックで培われた各競技の専門用語に関する手話、ジェスチャーが使われるでしょう。これはオリンピック選手が英語に堪能でなくても、競技で使われる用語を理解していれば大会が成立するのと同じことです。

 次回はデフリンピックの成果について解説します。

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(広報室/2025年10月22日)