国立大学法人筑波技術大学 筑波技術大学は視覚障害者・聴覚障害者のための大学です。

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  • 2025年12月26日
  • 茨城論壇

茨城論壇に学長の連載が掲載されました(5回目)

2025年12月20日 土曜日、茨城新聞「茨城論壇」にて石原学長の連載5回目の記事が掲載されました。
連載は全12回、次回の掲載日は2月28日 土曜日の予定です。

掲載された記事を以下に転載しています。ぜひご覧ください。

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「共生」醸成し大会閉幕 筑波技術大学長 石原 保志

12日間にわたって開催された夏季デフリンピック東京大会が11月26日に閉幕しました。

参加者の数はおよそ28万人。主催者側の予想をはるかに上回る人数でした。この中には、競技に出場するアスリート、サポートスタッフ(ボランティアスタッフを含む)、観客が含まれます。結論としては、明らかに共生社会に関する人々の意識が醸成された大会だったといえるでしょう。

デフ当事者だけでなく、相当な人数のきこえる人々が大会に参画し、また競技を観戦しました。きこえる人で手話が堪能な人はそれほど多くはなかったと思います。これまで、きこえない人、きこえにくい人と接する機会がなかった大勢の人々が、観戦(全て無料)やボランティア活動に参加していました。

そのような人々がデフ当事者と場を共有し、支援や応援という形で同じ目的を持ち、同じ方向を向いた意識共有の場面があらゆる競技会場で発生したはずです。

きこえない、きこえにくい人の中でデフコミュニティーに自らの居場所を見いだす人と、普段はデフの人々と接する機会がない人々との間の心の交流です。共生社会を阻むもの。その最たるものは人々の心の壁です。共生社会があらゆる人々にとって豊かな社会であるという意識あるいは心の志向が、教わるものではなく、体験を通して芽生え培われていくものとすれば、この大会の中で実施された全ての競技、イベントがそれに結び付いたに違いありません。

一方で、デフリンピックを通して、共生社会における課題も明らかにされました。例えば、テクノロジーによる障害者支援(アシスティブテクノロジー)の利用に関する問題です。多くの競技場に音声を文字で表示するシステムが用意されていました。しかし 競技に関してアナウンスされる音声の一部しか文字化されない、もしくは一瞬で文字が消えてしまう。また文字を表 示する電光掲示板やモニターが、会場の一部の場所からしか見えない、といった苦情がありました。

また通訳者(国際手話通訳者と日本手話通訳者)が招集されましたが、十分な人数が確保できず、通訳が必要な場に配置されていないという状況が散見されました。これは競技だけでなく、例えば、デフリンピックスクエアではデフスポーツに関わる各種イベントが開催され、筑波技術大学の聴覚障害学生もサポートスタッフとして100人程度が交代でアシストしたのですが、イベントの中心になる方が音声のみで説明をするというようなこともありました。たまたまそこに居合わせた手話のできる方が、機転を利かせて通訳したという出来事も耳にしました。

主催側の方々を含め、情報保障(音声を文字や手話に変換して提示する)に関する意識とリテラシーが不十分であったことが反省点として挙げられるでしょう。一方で、観客やボランティアスタッフのきこえる方々の中には、情報保障の必要性や課題についてこの大会を通して認識した方々もいたでしょう。

情報保障やコミュニケーション方法に関する問題は、社会の中のさまざまな場に存在し、特にデフが働く職場で問題が顕在化することが多いのです。今まで「障害者」「きこえない、きこえにくい人」の状況を知らなかった人たちが、今大会を通して知ることができたとしたら、共生社会の基盤となる「当事者意識」を得たことになります。デフリンピックが契機となり、共生社会実現にまた一歩近づいたといえるでしょう。

大会レガシーの継承を期待します。

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なお、過去の茨城論壇の記事は以下のリンクからご覧ください。
・茨城論壇連載一覧ページ

(広報室/2025年12月26日)