朝日小学生新聞2025年11月13日付4面 SDGsがわかる ともにいきる 本文ここから  今月15日から開かれる「東京2025デフリンピック」。聴覚障がいのある選手たちによる国際的なスポーツ大会です。耳がきこえる場合ときこえない場合、スポーツをするときにどんなちがいがあるのでしょうか? 筑波技術大学教授で、障がい者スポーツが専門の中島幸則さんに聞きました。(奥苑貴世)  聴覚障がいのある選手たちによるスポーツを「デフスポーツ」と呼びます。「デフ(Deaf)」とは「耳がきこえない・きこえにくい」という意味の英語です。  パラリンピックは、身体障がい・視覚障がい・知的障がいなどのある選手が出場できるスポーツ大会です。聴覚障がいはふくまれていません。そのため「他の障がい者スポーツに比べて、デフスポーツやデフリンピックはあまり知られていない」と中島さんは話します。 (きこえないって想像つく?)  「きこえる人にとって、きこえない・きこえにくい人たち(ろう者)がスポーツでどんな困難があるのか、想像しにくい。それは同時に、聴覚障がい自体への理解が進んでいないともいえると思います」  今回、日本で初めてデフリンピックが開かれることで、デフスポーツについて知る人が増えると同時に「もっと、ろう者が住みやすい社会になってほしい」といいます。 (目で見て分かるように)  聴覚障がいがあると、スポーツにおいてどんな困りごとがあるのでしょうか。中島さん自身はろう者ではありませんが、スポーツ科学の視点からデフスポーツについて研究しています。大学では、ろう者の学生たちに授業をしています。  デフスポーツでは、例えばスタートの合図や審判の指示を、音ではなく光や旗などで表します。目で見て分かる方法で、選手に伝えるためです。  それだけではなく「スポーツをするときに重要な、バランスや平衡感覚にも難しさをかかえています」と中島さんは説明します。「バランスを取るとき、目と耳、筋肉、おもにその三つの感覚を使っています。例えば、目をとじて片足で立ってみてください。耳がきこえる人にとってはそんなに難しくないかもしれませんが、ろう者にとってはすごく大変なこと。目と耳、二つの感覚が使えなくなるからです」  スポーツでは走ったりふり向いたり、はげしい動きをたくさんするので、バランス感覚は欠かせません。ボールや他の選手の動きなどの音からも、周りの状況をつかんでいます。「デフスポーツの選手たちは、そういった情報がかぎられています。そのことをぜひ知って、競技を見てみてほしい」 (世界中のろう者と交流を)  聴覚障がいのある学生たちが学ぶ筑波技術大学・大学院からは、学生や卒業生たち計17人がデフリンピックに出場します。  また、産業技術学部の学生たちを中心に100人以上が、ボランティアとして関わります。大会期間中に国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)に設置される「デフリンピックスクエア」で、選手のサポートをしたり、ろう者の文化について伝えるエリアに参加したりする予定です。国際手話や障がい者スポーツについて学んでいる学生たちもいます。  「学生たちには、世界中のろう者と交流できるこの機会を生かしてほしい」と中島さんは話します。 デフリンピック 夏と冬の大会がそれぞれ4年ごとに開かれます。日本では初開催で、今月15日から26日まで、東京都・福島県・静岡県で開かれます。世界の70以上の国や地域から約3千人の選手がおとずれ、21の競技が行われます 筑波技術大学 日本でただ一つの、視覚障がい者・聴覚障がい者のための4年制国立大学。1学年約90人で、目がみえない・みえにくい学生が学ぶ保健科学部、耳がきこえない・きこえにくい学生が学ぶ産業技術学部のほか、2025年度に新しくできた共生社会創成学部は、視覚障がい・聴覚障がい両方のコースがあり、それぞれの障がいがある学生がいっしょに学ぶ授業があります。 本文ここまで 以下、写真4枚の説明 写真の説明1枚目 「東京2025デフリンピック」に出場する、筑波技術大学の学生や卒業生たち。「デフリンピック」の手話をしています=10月16日、茨城県つくば市 写真の説明2枚目 日本初出場となるデフハンドボールの小林優太選手(左)。筑波技術大学の卒業生で、学生だったときに立ち上げたサークルが中心となり、日本代表チームとなりました=2024年12月、東京都北区 朝日新聞社 写真の説明3枚目  デフリンピックを盛り上げようと、全国を回っているキャラバンカーが10月16日、ろう者の学生たちが学ぶ筑波技術大学天久保キャンパスにやってきました。大学の学生や卒業生たち、ゆかりのある選手たち11人もおとずれ、意気ごみを伝えました。 手話で意気ごみを語る選手たち=10月16日、茨城県つくば市 写真の説明4枚目 「東京2025デフリンピック」の開催を伝えるオブジェ。右下の公式エンブレムは、筑波技術大学産業技術学部の卒業生の多田伊吹さんのデザインです。ろう者のコミュニケーションに欠かせない「手」を一筆がきでえがき、「輪」を表現しています