見出しここから デフリンピック舞台に新技術。 聴覚・視覚障害者のための唯一の国立大が知恵。 選手、目の動き数値化、指導に活用。 聞こえない分 眼球運動活発。 観戦スマホ短文実況で感動共有。 見出しここまで。 紙面左上、導入部分ここから。 11月15日開幕の聴覚障害のある選手の国際競技大会「東京デフリンピック」は、選手強化や観戦をめぐる新技術の力を発揮する舞台にもなります。聞こえないことをどう補えば選手の競技力が上がり、応援の人たちが楽しめるか。聴覚・視覚障害者のための国内唯一の国立大、筑波技術大(茨城県つくば市)の研究者たちが知恵を絞っています。(大野孝志) ここまで。 本文ここから。 聴覚障害のある選手にとって目の動きは重要。デフバドミントンのダブルスでは、前衛の選手は味方後衛の足音や打った音が聞こえません。どこからどんなショットを打ったかが分からず、目で見て反応するしかありません。一瞬遅れることもあります。 聴者に比べて発達しているはずの目の動きを生かし、反応の遅れをなくし、見てわかる指導に生かそう―。筑波技術大院生でデフバドミントンの沼倉千紘選手35歳と、聴覚障害者スポーツが専門で同大の中島幸則教授63歳が、仮想現実(VR)と視線追跡の最新技術で挑みます。  東京・神宮球場に近いベンチャー企業FOVEで、同社開発のVRヘッドセットと視線追跡技術を、記者が体験しました。箱のようなゴーグルをかけ、目の前に現れた30個の数字を順に目で追います。上下左右に動く点を追ったり、矢印の色に応じて見る先を変えたりする課題に答えます。その時の眼球の動きを内部のカメラがとらえ、眼球運動の能力を数値化します。  矢印での反応は沼倉選手が0.25秒で、記者は0.35秒。0.1秒も違いました。点と目の動きが合致した割合は沼倉選手48.6%、記者39.4%。上下左右に動く点を追えた割合は沼倉選手が42.2~53.8%で、記者は32.2~41.1%。仁科陽一郎取締役41歳は「沼倉選手の方が思い通りに目をコントロールできています」と評価しました。  このテストを今夏、デフバドミントンの日本代表選手と、新潟市内の高校バドミントン部の聴者の選手、各十数人に実施しました。デフ選手の方が目の動きがより活発とみており、現在、データを集計中です。  FOVEはアバター(分身)の視線を実際の利用者とゲーム内で連携させようと開発を始めました。眼球運動を数値化できることを生かし、2019年ごろから医療・健康管理や学術研究の領域へ方向転換しました。  沼倉選手は「デフの選手の目で追う力を聴者の選手と比べ、プレー中に見るポイントの違いをまとめることで、デフバドミントンの指導に役立つ情報を得たい」と言います。中島教授は「デフ選手は聞こえない分、目を使っていることを競技指導者に理解してもらい、見て分かる指導の工夫につなげたい」と考えています。  聴覚障害があると試合会場の案内放送を聞き取れず、観戦していて今何が起きているのか、分かりづらいことがあります。観客同士が周りに情報を伝えあうことで、感動を共有できないか。筑波技術大で2014年、ISeeeプロジェクトが始まりました。東京デフリンピックでは、バドミントンやハンドボールの一部会場で展開する予定です。  ISeeeは Information Support of everyone by everyone for everyone(みんなの、みんなによる、みんなのための情報保障)の略。来場者はスマートフォンで、SNSのタイムライン(TL)のように投稿するISeee TLを活用します。  アプリをダウンロードする面倒を省くため、利用者はQRコードを読み取り、「ルーム」に入ります。いわば試合会場でだけ使える局地的なSNS。TLはXのポスト(投稿)に似て「〇対〇で△△選手が圧勝」「第〇コートの試合はラリーが白熱」などの実況の短文が時系列で並びます。「今のはなぜファウル?」「スタートしないのはなぜ?」などと投稿すると、他の観客や競技団体スタッフが短く解説。撮った画像を共有することもできます。  競技団体の協力で、デフバドミントンの強化合宿や催し会場で実証実験してきました。利用者は「状況が分かって楽しい」「アナウンスが聞こえなくても、審判の判定が分かる」といった感想を寄せました。全盲の利用者はスマホの読み上げ機能で「点数や勝敗を把握できた」と喜びました。点数などを投稿したのは聴覚障害者でした。  これまでも障害者スポーツ大会では「スクリーンを見てください」といった案内掲示や手話通訳がありましたが、障害者向けの席に限られ、タイミングを逸することも。プロジェクトリーダーの白石優旗教授47歳(専門は情報科学)は「インターネットを介し、大勢の人ができることをやれる技術を生かせないか」と考えました。「これまでの情報保障は、支援をする側とされる側が固定されがちだった。ISeeeでは誰もが情報を発信し、誰かを助けることができる」