2025年12月19日 東京新聞 朝刊 朝刊茨城版18頁 2025東京デフリンピック 刻む編(下) 喜び、勇気「人生の軸」 パフォーマー瀧澤さん 手話、筆談、アプリで一体感 本文ここから 東京デフリンピックの開閉会式では、聴覚障害のある筑波技術大2年の瀧澤優さん(20)がパフォーマーとして出演し、会場を盛り上げた。「聞こえる力に関係なく、誰もが輝ける社会を発信したい」と臨んだ大舞台と、そこに至るまでの練習を通じ、感じた思いを寄稿してもらった。 開閉会式の「100年の1日」では3つのシーンがあり、うち聴覚障害者を巡る過去を表現したシーン1と、未来を示すシーン3を担当。閉会式の「ボンミライ!」では選手たちと踊りました。 リズムの取り方は、現場の状況に合わせて工夫しました。開会式では音楽とともにカウントを取る聴者のパフォーマーのうなずきや、LED映像の動き、振りの流れを見てタイミングをつかみました。また、自分の中でリズムを覚え、流れを体に染み込ませるようにしていました。閉会式では太鼓の振動があり、それを体で感じ取りながらリズムを合わせていました。 練習は、聞こえる人と聞けない人が一緒になって取り組みました。聴者と話すときは手話通訳者のそばや筆談、メモアプリで会話したり、簡単な手話や身ぶりを使ったり、さまざまな方法でコミュニケーションを取りました。おかげで振りのタイミングを共に確認し、分からない部分を細かく共有することができ、互いに安心しながら練習できたと感じています。 閉会式では踊る時間以外に、いろいろな国の選手たちと少しだけ、国際手話で会話することができました。気持ちで向き合うことの大切さを改めて強く感じました。「その衣装いいね!交換する?」と言われ、思わず笑い、すごく楽しかったです。 本番は練習とは違う空気で緊張もしましたが「失敗してもいいから、全力で思いきり楽しもう!」と気持ちを切り替えてステージに立ちました。おかげで、練習以上に集中できました。終わった瞬間に緊張がほどけ、近くにいた仲間と自然に目が合って、思わず頬が緩みました。 同じステージになった一体感がとても心に残りました。いろいろな人から「すごく感動したよ!」と声をかけてもらえて、本当にうれしかったです。 練習スタートから本番までの3ヵ月。聞こえる聞こえないに関係なく、リズム、動き、視覚的な合図で一体感を生み出せることができ、みんなの心を一つにすることができて良かったです。とても貴重で忘れられない経験になりました。 「違いを理由にしてあきらめない」「相手に合わせて、伝わる方法を選ぶ」という姿勢を大切にしたいと感じました。これからも伝える方法を柔軟に工夫しながら、違いを超えて積極的にかかわっていける人間でありたいと思いました。 また、ろう者として自分が前に立つことで、誰でも安心して参加できる場づくりに少しでも貢献できれば、この3ヵ月で得た一体感、喜び、挑戦する勇気を、これからの人生の軸として大事にしていきたいと考えています。 未来へつなぐ開閉会式 11月15日に開会式、26日に閉会式をいずれも東京都渋谷区の東京体育館で開催。生まれつき聞こえない俳優・演出家の大橋弘枝さんと、聴者の振付師でダンサーの近藤良平さんが演出した。舞台上と客席で、聴覚障害者を含む計約130人のパフォーマーが出演。 開会式はデフリンピックの歴史を、聴覚障害者の過去・現在・未来で表現する「100年の1日」を上演。 閉会式では盆踊りをモチーフに、大会が始まったフランスの言葉で「良い」を意味する「ボン」と日本の盆をかけて未来につなげる「ボンミライ!」を繰り広げた。 本文ここまで、以下写真の説明 写真上 東京デフリンピックの閉会式で盆踊りをアレンジした「ボンミライ!」を楽しむ各国の選手ら 写真下 海外の選手たちと共に閉会式に出演した瀧澤さん(本人提供) いずれも東京体育館で